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第4章 真実と嘘

「婆ちゃん！」
清良が叫んだ。

伊津子は静かに梅の前に膝をついた。
「…頭を上げてください」
梅は白髪頭を振り、額を床に擦り付けたままだ。
「…清良さんをずっとお見守りいただいて、心からお礼を申し上げます」
「…奥様…？」
恐る恐る貌を上げた梅の手をそっと取る。
嫋やかだが、凛とした声で話しかける。
「清良さんが元気に成長されていた…清良さんに会えた…生きて会えた…。
…それだけで私は、幸せです」
「…奥様…そんな…！」
震えながら首を振る梅に、優しく微笑いかける。
「…貴方に何かの責任を課すことを、清良さんは望まないでしょう。
清良さんが望まないことは、したくはありません」

清良の白い頬に新たな涙が静かに流れる。
震える唇が、そっと動いた。
「…母さん…」

伊津子の長い睫毛が震え、その表情は驚きに変わる。
「…清良さん…。
もう一度…言って…」
「母さん…！…ありがとう…」
泣きながらその胸に飛び込んだ。
「清良さん…！」
伊津子の白い手が、しっかりと清良の背を抱いた。

郁未が温かな微笑みを滲ませて、言った。
「お母様だよ、清良。
…君は侯爵令嬢なんだから」
涙に濡れた瞳で、大袈裟に郁未を睨む。
「うるさい。バカ」
伊津子が涙を滲ませて、笑った。
「…清良さんたら…」

「言葉遣いの特訓は早急な課題だな。
こんなじゃじゃ馬が登場したら、社交界は大騒ぎだ」
鬼塚がにやりと笑い嘯いた。
清良は憎々しげに言い放つ。
「余計なお世話なんだよ、オヤジ！」
伊津子はくすくす笑いながら、清良を抱きしめた。
「どんな清良さんでもいいのです。
どんな清良さんでも私の愛する娘だから…」
「…母さん…」
清良は、自分に良く似た黒い瞳を見つめ返しながら、子どものようにもう一度、馴染み始めたその温かな胸に貌を埋めたのだった。