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狂恋 ~狂おしい恋に身を焦がす~【BL】
第1章 10年ぶりの再会
「ええ、そうですね。もう十年ぶりですね」
 利人は笑顔で扉を閉め、オレの向かいのイスに座った。
「休憩中でしたか?」
「あっああ。お前は?」
「挨拶回りの途中です。ちょっと疲れたんで、休憩しに来ました」
「そうか…」
 …間が、持たない。
 と言うより、オレの心臓がさっきから痛んでいる。
 これは罪悪感か?
 それとも十年前のような過ちを犯すなという、自らの警告だろうか?
「…じゃ、オレは戻るから」
「待ってくださいよ」
 立ち上がると、利人に腕を掴まれた。
 掴まれた腕が痛い。強い力だ。
「…何だよ」
 利人の色素の薄い琥珀色の眼を、真正面から見つめる。
「話があります。今夜、空けといてくれませんか?」
「お前の方がムリだろ? 歓迎会、あるんじゃないか?」
「予定があるので、後にしてもらいました」
 予定というのは、やっぱりオレのことだろうな。
「オレはお前に話しなんかない」
「私はあります。例え一晩かかってもいいぐらいにね」
 利人の表情は笑顔ながらも、その眼は激しい感情を宿していた。
 ここで逃げても、利人はまた追ってくるだろうな。
 オレはため息をついて、諦めた。
「…分かった。どこで話をする?」
「私のマンションに来てください」
 そう言ってオレの腕を放し、胸ポケットからメモを取り出した。
「ここが私の新居です」
 メモを受け取り、頷いた。
「仕事が終わったら行く。もしかしたら残業が入るかもしれないが、八時には行けると思うから」
「分かりました。お待ちしています」
 そう言って利人は休憩室を出て行った。
 終始、固まった笑顔で。
「でも…そうさせたのは、オレ、か?」
 呟きをもらし、メモを見る。
 会社から三十分ほど先にある、住宅街の高級マンションの名前が書かれていた。
 思わず苦笑してしまう。
「相変わらず、親に可愛がられてんだな」
 利人の父親は日本人で、大企業をいくつも抱える華宮グループの会長。
 母親はイギリス人のトップモデルで、一人息子の利人はそれこそ蝶よ花よと猫かわいがりされて育った。
 おかげで成績優秀、容姿端麗、対人関係も良好に築ける立派な息子ができたワケか。
「でも、性格と好みに難があるよな」
 そこが人間らしいところか。
 オレは二度目のため息をつきながら、缶コーヒーを開けて飲んだ。
 いつも飲むより、苦く感じられた。
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