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人工快楽
第2章 真央と香苗
 狂乱の一夜の後、わたしとお母様は霧島裕介が手配した病院へ搬送され閉じ込められた。

 目を覚ました時、まるで見覚えのない部屋の中をぼんやりとした頭で見回したのを覚えている。

 わたしが閉じ込められた病室は、窓に鉄格子がはめられていて、まるで鳥籠か檻のようだった。

 次第に頭の中がはっきりとしてくると、この部屋にいるのは自分ひとりだと認識した。

 その途端、途方もない恐怖に襲われた。

 見覚えのない天井を見上げた事よりも、そこにお母様がいないことに激しく動揺した。

 ベッドから飛び降りて部屋の扉に向かう。

 外に出ようと扉を開けようにも鍵がかけられているのか、扉は頑として開かない。

 お母様に会いたい。

 お母様に会いたい。

 お母様を犯して安心させてあげたい。

 お母様を理解できない奴らから、お母様を守らなくちゃいけない。

 扉を開けようと拳を叩きつけ、ここから出してと叫んだ。

 鍵を開けて入ってきた看護師が宥めるようにして私をベッドに戻し、腕に注射器を突き刺した。

 激しく抵抗しようとしたけれども、体が弛緩して意識が遠くなる。

 再び目を覚ました私は、驚くほど頭の中が冷静になり、自分の現状を考えることができていた。

 何なのだろう、この状況は。

 恐らくここは精神病院か何かなのだろう。

 眼に映る窓ガラスの向こう側にある鉄格子から見ても間違いない。

 暴れて抵抗してみても、また精神安定剤か睡眠薬のような薬物で眠らされてしまう。

 だとすれば今は大人しくしながら様子を伺うしかない。

 わたしが今どう言う状況にいるのか、お母様が今どこにいるのか。

 ちゃんと状況を把握した上でないと動けない。

 だから、わたしは他人向けの良い子を演じることにした。

 家でもそうだった。

 性に塗れている本当のわたしは他人には理解出来ない。

 だから、本当のわたしの姿を知っている人以外と接するときは、気弱で大人しい良い子を演じるようにしていた。

 誰から言われたともなく、気が付いた時にはそうしていた。

 その方が『ウケ』が良かったからだ。

 ここでもそうだった。

 偽りのわたしを演じていたら医師や看護師たちが落ち着いたものと判断したのか、扉の鍵をかけることもなくなっていった。
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