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実業家お嬢様と鈍感従者
第12章 永遠の別れ
ヘンリーは、自分に許された返答を静かに口にした。
「……さようでございますか」
「……ええ」
ヘンリーの苛立ちを含んだ感情に気付いたのか、彼女は暫く黙り込んでこちらの様子を窺っていた。
彼も口を開くと余計なことを言ってしまいそうで、口を閉ざしていた。
数分後、アンジェラは意を決したように口を開いた。
「罪ほろぼしと言う訳ではないけれど……どちらにするかは、貴方に任せるわ……」
ひどく事務的に聞こえる彼女の言い方と、意味の分からない発言にヘンリーは戸惑う。
「どちらとは……どういうことでしょうか?」
「え……貴方の異動のことよ。領地の執事か、叔父様の秘書か……」
「バーナード卿の秘書……でございますか?」
全く初耳の事にヘンリーは戸惑った。しかし、彼女も驚いたようだ。
「聞いていないの?」
「はい」
「……あんのタヌキ親父っ!」
拳を握り締めて父への怒りを露わにする彼女を見て、ヘンリーは少しホッとした。
しかし彼女は直ぐ態度を改めると、あまり感情を含めない物言いで口を開く。
「私の都合で勝手に経営から手を引くから、叔父様としては有能な貴方を秘書兼共同経営者として欲しいらしいの……ただ……」
「ただ、なんでしょう?」
言い淀んだ彼女の言葉尻を捉えて、口を挟む。
「お父様はそのことに反対されているのよ。叔父様の秘書になるという事は伯爵家を出ることになってしまう。お父様は貴方にはゆくゆく家令を継がせることを期待していらっしゃるから……」
「旦那様がそう仰られているのですか?」
ヘンリーの疑問に、彼女は誇らしいものを見るような目で彼を見つめた。
「そうなの。お父様は貴方にとても期待していらっしゃるわ」
「………」
領地の執事になるということは、一年の殆どを彼女の傍に仕えることが出来ないことを意味する。
お嬢様はそれでいいのだろうか。
彼女にとって自分はもはや使用人としてさえ、傍に置きたくない存在になってしまったのだろうか。
そう思うと、ヘンリーは咄嗟に疑問を口にしていた。
「……お嬢様は……どう思われているのですか?」
「え……私……?」