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幸せの頂点
第2章 栄転



克は私が本店勤務になれば、ますます仕事を辞めなくなると不安なのかもしれない。

子供が欲しい克に私はかなりの我慢をさせてるのだろうか?

今の幸せで満足して、結婚して子育てを優先する妻になって欲しいのだろうか?

私の幸せの頂点はここが限界になるかもしれない。

不安と悲しみに逆らいながら歩く帰り道。


「ただいま…。」


部屋の扉を開ける事を初めて躊躇った。


「おかえり、それから…、おめでとう!」


克が穏やかな笑顔で私を迎える。

驚きで目を見開いた。

小さなテーブルには私の好きな食事とケーキが用意されている。


「克…?」


何故、メッセージをくれなかったの?

そんな些細な事で克の笑顔を疑ってしまう。


「ごめん…、僕もびっくりしたんだ。それから慌てて買い物に出掛けて紫乃のお祝いをする事ばかり考えてたら返事をするのを忘れてた。」

「克…、喜んでくれる?」

「だって…、それが紫乃の夢だったよね?」


ほんの少し克が寂しい瞳をした。

私の為にまた我慢すると決めてくれたんだと思う。

私は本当に幸せだ。


「ありがとう、克。」


克に飛び付いてキスをする。

照れた笑顔をする克が


「先にお風呂を済ませておいで…。」


と私から視線を逸らす。

純情で恋人の時間が苦手な人。

それでも必ず私を優先してくれる。

幸せ過ぎる穏やかな時間を克と過ごす。

春には私が本店に移動になるからと休みの調整をして温泉旅行にも出掛けた。


「克…。」

「愛してる。」


照れ屋の克が私の手を握り、必死に気持ちを伝えてくれるのが嬉しかった。

克を愛してる。

私は克と結婚して幸せな妻になる。

そう信じてたのに…。


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