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幸せの頂点
第14章 出張



無言のままの私を乗せた新幹線は次の停車駅である三島駅へと滑り込む。

駅前からはレンタカーで移動する。


「大丈夫か?」


車を運転する部長が私の方を見る。


「克が居た…。」


そう呟く私に


「ふーん…。」


と興味のない返事を部長がする。


「部長…?」

「彼氏が気になるのか?」


冷たい声…。

気になるのか?

どうせ別れる男…。

克が誰と居ようと、もう私には関係ない。

寧ろ、別れる言い訳がお互いに出来たと喜ぶべき状況のはずなのに私の心が落ち着かない。

誠実で優しいだけの克しか知らない。

あんな風に騒ぐ人達と関わるのが嫌いな人だった。

今更になって私の知らない克を見たと狼狽える。

私が克の前で自分を偽って来たように克も私の前では偽りの姿しか見せて来なかったのかもしれないとか考えると今までの生活が音を立てて崩れる。

幸せだと思っていたのに…。

それは全て偽りの幸せ…。

幸せなんか何処にも存在しない。

今にも破れそうな薄い紙の上をタイトロープで渡る幸せにしがみついてた自分の姿が怖くて震える。


「お前、本当に大丈夫か?なんなら紫乃だけ東京に帰るか?」


部長の言葉に我に返る。

今は仕事中…。

克と違い私は部長と旅行でなく出張でここに来てる立場だと思い直す。


「大丈夫です。ただ本当の意味で踏ん切りがついただけです。」

「未練でもあったのか?」


ぶっきらぼうな言い方。


「ないですよ。ただ自分が愚か過ぎて怖いんです。」

「愚かか?」

「無いもの強請りは愚かだと思いませんか?」


幸せなんか存在しない。

そんなものは偽りの中で作り出された幻想だと自分に言い聞かせる。


「俺は愚かだとは思わん。無いもの強請りだとしても自分が欲しいと思ったなら自分の手で作り出してでも手に入れりゃ良いだけだ。」


部長の力強い言葉に驚いた。

偽りでなく本物にしてしまえば良いと言い切る。


「そうですね…。」


幸せという幻想を諦める必要はない。

部長が私に与えてくれる言葉通りに人から与えられた偽りの幸せでなく自分でそれを作り出せる女になりたいと考えを改める日になった。


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