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ラブ・アンド・セックス
第1章 大きな舞台に立ちたい!
言霊の話を聞いたことがある。古代の日本人は、言葉には霊が宿っていて、発した言葉が現実になると信じていたらしい。

打ち上げでオレが言ったことが、その言霊となったのか。3日後、チャンスは突然やってきた。

斉藤と名乗る女性から連絡をもらった。役者を探していて、麻衣とオレに会いたいという。早速、ホテルのラウンジで会うことになった。

「斉藤玲子です」

30代半ばくらいのクールな感じの美人だった。黒いタイトミニのスーツがビシッと決まっている。

差し出された名刺には、「オフィス相沢 マネージャー」と書いてあった。

「オフィス相沢って……」

「相沢武の事務所です」

「相沢武!!」

オレは麻衣と顔を見合わせた。

相沢武――世界中の賞を総なめにしている、いま最も売れている演出家だ。舞台にリアリズムを持ち込むことを特徴としていて、出世作となった『パティシエ』では、新米パティシエに扮した役者が、舞台の上で本物の大きなウエディングケーキを作りあげ、評判となった。

「相沢先生の事務所が、どのようなご用件でしょうか……」

恐る恐るオレは尋ねた。

玲子さんは、軽く咳払いをしてから、

「出演依頼です。次の相沢の作品に、お二人に出ていただきたくて来ました」と言った。

オレは耳を疑った。オレたちのような無名の役者が、世界的な演出家である相沢先生の舞台に立てる!?

「ほ、本当ですか?」

「本当です」玲子さんは真顔だった。「先日、お二人が出演された『ロミオとジュリエット』を相沢が拝見して、お二人の演技は、本当に素晴らしかった。あんないい役者、しかも夫婦は、そうはいない。必ずOKをもらって来いと言われて来ました。どうでしょう、ご出演いただけないでしょうか?」

嘘じゃないんだ。

「やった!」

オレは、麻衣と手を取り合って喜ぶと、

「相沢先生からお声をかけてもらえるなんて夢のようです。是非やらしてください。よろしくお願いします!!」

二人そろって深々と頭を下げた。
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