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黄昏異変 肉欲の奈落
第1章 女医 早苗
 俺の最後のお相手といっても、これが打ち止めと決めていたわけではない。
 しかし、今思えばあの頃を境に、いつの間にか気がついたら卒業していた。
 だから、最後が誰か思い出せなくても仕方がないか・・・、などと愚にもつぬことに頭を悩ます。
 めっきり体力も落ちたが、それ以上に気力の衰えが気にかかる。

 「そろそろ定年か」

 ビショ濡れの電車の窓から、気がつけば我が家の屋根が見える頃だ。
 もう言い訳をさがすような浮気もしていないが、そんなサラリーマンの哀愁を歌ったサザンの歌をふと思い出す。
 家に帰ったら、風呂、酒、メシで、あとはテレビを見るだけ。

 まったくテレビがなければ、生きていけないなぁ。
 あのサザンの歌は・・・?そうだ『世紀末のカルテ』。
 ようやく曲名を思い出す。

 そんなことをぼんやり考えながら、改札を出て家路に着く。
 玄関のドアを開けると女房に代わって迎えに出て来てくれるのが愛犬リリー。
 そのままリードを手にリリーと散歩に出るのが日課。
 しばらく歩くと、いつものように近所の犬友、幸子と合流する。

 「日が短くなりましたねェ」
 「ホント」
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