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るりいろ(MILK &honey後日談)
第4章 るりいろ

 キーを差し込んで回す微かな音が物音一つ無かった駐車場に響き、ヘッドライトの灯りが薄暗がりの中を切り裂いて長く走った。

「……エンジンかけてみる?押すだけだけど」

「うん」

 何故かひそひそ声で聞くと、ひそひそ声が返って来た。
 グローブをしたるりの細い指が、セルモーターのボタンを押す。キュルキュルと音がして、エンジンが始動……

 ……しない。

 もう一回やってみても、同じ。
 るりは困った様に俺を見た。

「かからないね……バッテリー上がってないよね?」

「ごめんな、かかりにくいバイクなもんで……押し掛け習った?」

「一応」

「やってみる?……のは、坂が有る時にしような」

 やってみるからちょっと見といて、と頼んで、クラッチを切ってギアを一速に入れる。スタンドを外して、バイクを押したまま走る。スピードが出たところで飛び乗ってクラッチを繋ぐと……ぶすっと不機嫌そうなエンジン音が、聞こえて来た。
 これ、坂があると走らなくても飛び乗らなくても良いから、るりに試して貰うのは今度坂が有るとこでってことにした訳だ。ここだって出口のとこに坂ぁ有るけど、上んのやだし。

「かかったね!」

「ん、かかった。」

 スタンドを出して、止めて、降りる。
 嬉しそうに走って来たるりの装備を確認する。

「メットキツくない?」

 るりの買ったヘルメットは、顎の部分の無いジェット型というヤツだった。万一転んだ時を考えると、顎部分も覆っているフルフェイスの方が多少安全なので、お願いして俺のと替えて貰った。
 本当は、キツくない?じゃなくて臭くない?って方が気になるけど、返事が怖いから聞かない。

「大丈夫だよ」

「寒くない?」

 長袖ジャケットの首のスカーフを指差して聞く。運転者が多少風除けになるけど、襟元から風が入ると冷える。……特に、今まだ夜だし。

「今の所は、大丈夫だけど……光の方が、寒そう」

「そーでもないよ?」

「でも、ヘルメット替えて貰ったから、首のとこがたくさん開いちゃってるし……そうだ!ちょっと、良い?」

「へ」

 るりは、はめていたグローブを外すと、俺の方に手を伸ばした。

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