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復讐の味は甘い果実に似て
第9章 さよならという儀式 ~ひかるの告白~
 コテージからは後ろ姿しか見えないけれど、恵梨と先輩はお互いに膝を抱えたまま彫像のようにじっと動かなかった。
 いったい、何を話しているのだろう、と思うが、聞きに行くわけにもいかない。

「今さら、別れるのが嫌だとか、そんなこと話してないと思うよ。あの二人。」
 あたしの疑問を察したのか、明日香があたしの後ろで服を着ながら、ポツリと言った。
 そうなんだろうか。
 あたしには、よくわからない。

「もう、お互いに続けらんない、ってのはわかってるんだよ。いや、多分、復讐って形で、感情をぶつけて、ようやくわかったんだと思う。」
 明日香が言葉を続ける。
「だから、もう、これからどうしようかなんてことは、話しようがないんだよ。あえて、話すとしたら、過去のことだけ。楽しかったこととか、一緒にいられて幸せだったとか、そんなことを話すんじゃないのかな。」
 確かに、明日香の言うように、恵梨と先輩は話しているのかさえ、よくわからなかった。

 もう、この人と未来を共にすることはないのだ、と自覚したうえで、話すべきことは、いったい何があるんだろう。
 そこに意味は何もないのかもしれない。
 もし、あえて意味を求めるとすれば、それは自分の気持ちに、何がしかの区切りをつける儀式のようなものだと思う。
 その人と過ごした過去を記憶として封印して、明日からはその人と別の道を歩んでいくということを、お互いに確認するための儀式だ。

「……そろそろ、ベッドメイクも来るし、わたしたちはどっかでお昼ごはんにしようよ。」
 明日香の声に、あたしはそそくさと外へ出かける用意を始めた。

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