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復讐の味は甘い果実に似て
第9章 さよならという儀式 ~ひかるの告白~
 翌朝、階段を降りてくる音がして、あたしは目を覚ました。
 まだ、6時前だけど、部屋から降りてきた先輩は、もう、完全に帰り支度を整えていて、このまま帰るつもりらしかった。
 先輩の姿を見て、慌てて浴衣を整えたあたしを、先輩が押しとどめる。
 そのまま寝ていていいよ、ということのようだ。

 あたしは、少しだけ先輩に待ってもらって、浴衣の上に丹前を羽織ると、先輩と一緒に、コテージの外へ出た。
「書置きを残して帰るつもりだったんだけど、君の口から、平河さんや恵梨に僕が先に帰ることを伝えてくれないか。それと……ありがとう、と。」
「……あの、みんなと一緒に帰らないんですか?」
「うん、せっかく君や平河さんがお膳立てしてくれて、きちんとお別れできたから、もう、恵梨に未練を残したくないんだ。」
 先輩があたしを見ながら言った。

 儀式が終わった以上、もう、恵梨とのことは、過去の傷として受け止めるということなのだろう。少なくとも、そういう覚悟が出来たことは、先輩にとっての前進だと、あたしは思った。

「君や平河さんに言うべきなのは、いろいろと申し訳なかった、か、ありがとう、なのか、よくわからないけれど、僕はありがとう、だと思ってる。だから……ありがとう。」
 そういうと、先輩はあたしを抱きしめて、耳元で感謝を告げた。

 あたしは先輩の言葉にどう返せばいいのかが、わからなかった。
 結局、あたしは何も言えないまま、先輩の腕のなかで立ちすくんでいた。
 
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