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復讐の味は甘い果実に似て
第4章 背徳のなかで ~明日香の告白~
「君のところはどうなんだ? 彼氏は今日のことを知っているんだろう?」
 先輩に、いきなり浩二のことを振られて、わたしは狼狽した。
 確かに話はしている。だが、とても納得しているとは思えない。
 当たり前だ。
 浩二の言う通り、こんなバカなことに快く彼女を送り出す彼氏がいるわけがない。
 多分、自分の意地でこんな話に乗ってしまったわたしに怒り、呆れ果てているのだろう。
 現に、もう2週間も連絡がないのだから。

「先輩も会ったから知ってるでしょうけど、どう考えたって、納得してるわけないですよ。多分、別れる……ことになるんでしょうね。」
「……そうか。君や彼には、悪いことをしちゃったなあ。」
「……もし、彼と別れたら、先輩の彼女にでもしてもらおうかな。」
 わたしの言葉に、先輩が申し訳なさそうに後ろから私を抱きしめてきた。

「ふふっ、冗談ですよ。わたしと先輩じゃ、うまくいくわけないですから。」
「何で、そう思うんだ?」
「わたしも先輩も意地っ張りだから。いったん、自分でこうと思ったら、誰が何と言おうと聞きやしない。復讐してやるって思っても普通はこんなこと考えませんよ。でも、先輩はやっちゃったんです。わたしも、自分の意地を通すために彼氏の言うことを無視して、ここに来ちゃったんです。似てるんですよ。わたしと先輩。そういう主張の激しい人間は、磁石の同じ極みたいなもので、一緒にいると反発し合うんです。」
「……磁石の同じ極か。確かに、そうかもな。」
 わたしの言葉に、少しだけ先輩が笑った。

 だけど、そう言いながら、わたしは自分の言葉に、一抹の寂しさを覚えていた。
 たった一夜の事とはいえ、わたしは今夜のことを、死ぬまで忘れることはないだろう。
 わたしの後ろで、わたしを抱きとめているこの男は、わたしのなかにある男女の求め合いというものを、完全に別のものに書き換えてしまった。
 あの抗えない白い波の記憶を、刻印のように、わたしの体に刻みつけてしまった。
 もう、わたしはこの記憶を消すことはできない。

 これからの人生でどんな男と出会ったとしても、男に抱かれるたび、わたしの体は、あの白い波を貪欲に求めていくことになるだろう。


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