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爪先からムスク、指先からフィトンチッド
第6章 6 完成
 真菜との昼のランチの頻度が上がると今度は夜、一緒に飲みに行く約束も交わすようになる。一応、自分の匂いを警戒し、テーブル席があり匂いの立ち込めている焼き鳥屋を芳香が選んだ。


 店内に入ると甘辛いタレの焦げた匂いが漂っていた。
店員に二人掛けのテーブル席に案内され、生ビールを頼む。あまり人と落ち着いて外食する経験のない芳香がメニューを見て決めあぐねていると真菜が「適当に頼むね」と、てきぱき色んな種類の焼き鳥を頼んだ。

「ありがとう。立花さんってなんでも頼りになるね」
「そっかなあ。ねえねえ、ところで最近どうしたの? なんかお弁当やめたみたいだし、雰囲気も変わった気がする」
「え、そ、そう?」
「ああ、適当に頼んじゃったけど、柏木さん、アレルギー多かったんじゃなかったっけ。平気かなあ」
「あ、うん、実はそのことなんだけど……」
言葉に詰まる芳香に真菜は優しく話しかける。

「いいよいいよ。大丈夫なら気にしない気にしない」
「ん」

 彼女は外見はふんわりとした可愛らしい女性であるが、実は面倒見がよく姉御肌でしかもさっぱりとした性格だ。
無理に聞き出すともせず、その場のおしゃべりを楽しもうとする真菜が芳香は大好きだった。

「この、つくね美味しいねえ」
「ねー。ほらこの梅肉巻いたばら肉も美味しいよ」
「ほんとだー」

アルコールもほど良く回り二人は会社の噂話に花を咲かせる。

「最近さあ、匂宮さまがよくうちの階にいるねえ」
「えっ、そ、そうなの?」
「うん、前は週に一回見るかどうかだったけど、ここんとこ毎日一回は見るよ。いつもカッコイイよねえー、しかも、ふわっと素敵な香りさせてさあ」
「そうなんだ、私はちょうど見かけないなあ」
「あらーもったいない、目の保養なのにぃ。ほかの娘たちもきゃあきゃあ言ってるよー。通ったあとはみんな残り香嗅いでるものっ」
「あははっ……」

 毎週、間近で見て、足を触られていると言ったら真菜はどんな顔をするだろうか。少し酔いがさめ芳香はため息をついた。
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