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爪先からムスク、指先からフィトンチッド
第8章 8 混じりあう芳香
「芳香、芳香! 起きて」
「ふぁ? へ、ああ……」

(やばい。寝てた……)

 薫樹の顔が目の前に迫っている。芳香は慌てて身体を起こした。

「ご、ごめんなさい。どうしても足を触られると眠くなってしまって……」
「ふう……。どうしたらいいんだ」

「あ、あの。下からじゃなくて上から普通にしてもらえたらいいかと思うんですが」
「上から?」

「ええ……」
「普通に……か。わかった。どうすればいいか言ってくれ。
ついつい君の匂いを嗅ぎたくて足に行ってしまう。こういう経験がないからどうすれば君が喜ぶのかわからない」

「わ、私も経験がないのでどうしたらいいかわからないですが、たぶん、口にキスをしてそれから、えっと……胸とか触ったりとかして……あの……」
「そうか。じゃあ、そうしよう」

 迫ってくる薫樹を慌てて芳香は制する。

「ま、待って」
「ん?」
「あの、シャワー浴びさせてほしいです」
「なぜ?」
「なぜって? そんなの綺麗にしてからにしたいに決まってます!」

「……。匂いが消えるのが残念だが、仕方ないな」

 ほっと胸をひと撫でする芳香に薫樹は一言付け加える。

「ソープは使うな。5分以内に出てくるんだ」

「……」

 身体全体に熱めの湯を浴び、くまなく掌でこすれるだけこする。(ここくらいソープ使いたいけど……)

 淡い茂みを一瞥するが薫樹の嗅覚はするどく、すぐばれてしまうだろう。しかし芳香は普段からソープなし生活になっていた。
インターネットやメディアで石鹸なし生活のほうが匂わず肌に良いということを恋人がいないのをいいことに数年間実践している。つまり足以外は匂いに困ることがなかったのだ。

 そっと花弁に指を滑らせ優しくこする。そして腋や耳の後ろ、一応体臭が発生しそうなところを洗い浴室から上がり、また寝室へ向かった。


 アイボリーのカーテンがきっちり閉められ、ぼんやりとほの暗い寝室にすでに薫樹はボクサーショーツ一枚で待っている。
日に焼けることのない白い骨ばった肌が寝室に浮かび上がっていた。
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