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爪先からムスク、指先からフィトンチッド
第9章 第二部 女友達
 風呂をため、今夜こそ、結ばれるのだろうかと芳香が緊張していると、インターフォンが鳴った。

「はい、どちら様?」
「兵部さーん、アタシでーす。美月でーす」
「え。美月さん? どうしてここに?」
「ちょっと仕事のことで悩んでてぇー。社長にここ教えてもらたんですぅーお部屋に入れてくださーい」
「会社じゃダメなの?」
「会社じゃあんまりお話できないじゃないですかあ」

「……。わかった」
 インターフォンを切り、薫樹は振り返る。

「今から客が来る」
「えっ、あ、わ、私、どうすれば」
「ん? 何もしなくていいよ。仕事の話をしたいらしい」
「居ていいんですか?」
「いいに決まってる」
「はあ、じゃあ、お茶でも淹れますね」
「ん、すまない」

 玄関に薫樹が迎えに行っている間に湯を沸かし、お茶の支度をする芳香は、ちょっと新妻気分に浸ったがすぐにかき消される。


「こちら、イメージガールの野島美月さんだ」
「野島、美月でーす」

 美月は低いテンションで名前を告げてくる。

「か、柏木です……」

 芳香も暗くなる。

 薫樹だけマイペースに「ああ、彼女は僕のフィアンセだ」と付け加えた。

「フィアンセえええー?」
「ああそうだ。まだ一緒に暮らしてないけど、とりあえずそこに掛けて」
「はーい……」

 芳香は真菜から話を聞いていたので、さすがにこの状況は分かった。美月は仕事の相談という理由をつけてはいるが薫樹を狙っているのだ。

 薫樹と美月はテーブルで話をしている。お茶を出し、他にすることがないので、最近買った二人掛けのソファーに座り雑誌を読んだが、居心地が悪くなり、風呂にでも入ろうと浴室に向かうことにした。
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