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堕ちる人妻
第1章 堕ちる人妻
 ねえ、アナタ。アナタは今休憩時間でしょうか? 正午を回ったこの時間、どこかのお店で昼食を食べているのでしょうか? 


 私は今、デートをしています。アナタの知らない男の人と並んで街を歩いています。それも二十二歳という若い男性です。私より十も年下だけど、四十代のアナタから見るとまだまだ子どもに見えることでしょう。


 だけど、彼を見ているとドキドキします。


 体格がいいとか、大柄で筋肉質だから圧倒されてるってわけじゃありません。背格好は普通だし、腕っぷしも強そうには見えない印象です。工場でアルバイトをしているフリーターさんで、特別なカリスマがあるわけでもないのです。服装だって雑誌に載せられてる流行をそのまま着飾ったって感じですし、顔はせっかくのファッションに負けてるぐらいマイナス面が多いです。

 じゃあどうして私の胸がドキドキしてるのか。それは結婚してからこの十年、一度もしなかった浮気という新しい一歩を踏み出したからなのでしょう。


 今日は疲れた、明日にしよう。
 キスなんかもういいだろ。
 夜に会話するのも面倒じゃないか? 
 俺のことは休日になるまで放っておいてくれ。
 構うなってことだよ。
 

 結婚何年目からでしょうか。アナタが見つめる視線の先に私がいなくて、アナタの口から零れる言葉に温もりの欠片さえなくなったのは……。


 私はアナタを責めません。良いか悪いかで仰るなら、悪いのは私です。理由はどうあれ夫婦として共に生活しているのだから、他の男に手を出すなんてことは絶対に許されない。だからもし今、バッタリ私達が出くわしてしまったとしても言い訳はしません。今日でなくとも、後日この事がばれたとしても同じです。それにこれが原因で離婚となってもいいと思っています。アナタの心を傷つけたとして、慰謝料を取られるようなことがあっても構いません。むしろ私達のこの十年がお金で解決するのなら安いぐらいでしょう。それぐらいの覚悟をもっての浮気なのです。 
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