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哀色夜伽草紙
第12章 アナタと生きたい
「ううん。でも一人で住むには広いかなって」
今までの壱くんの部屋は如何にも無駄を省いた感じの作りで、一人で住むための部屋という感じだった。
そしてこの部屋は明らかに一人部屋ではない。
「ああ、琴莉とオレの二人と、あと子どもが出来てもいいようにだよ」
壱くんは頬を擦り寄せてそう囁いてきた。
やっぱりそうだ。どう見てもここは少し高級なファミリー向けの物件だ。
一緒に住むことはおろか、子どもなんて二人は持てるはずないのに、何を考えているのだろう
「何か言いたそうだね琴莉。分かりやすいよ本当に」
壱くんは私に触れていない方の手を口の前に当ててクフフと笑った。
「だって、それは望めないよ?望んだらいけないよ」
「なぜ?何も無理はないと思ってるけど?だって、琴莉はオレの宿命の人だから」
「どうしてそんなに簡単に?」
ぎゅっと自分の腕の中に私を引き入れて壱くんが肩口に顔を埋めてきた。
「簡単にじゃないよ。昔からずっと考えてたし、覚悟は決めてる。オレはね」
「私も壱くんと生きていくってそれは決めたけど結婚はしないよ、出来ないもの……」
それなら結婚はしないでいた方がいい。
子どもは壱くんは別の人と育てて……私は捨てられる日まで愛だけで生きていく。
そうすれば彼と居られる。そう思った。
「それだけで充分だよ。琴莉がオレを選んでくれた、それだけで」
触れ合う身体で、何も答えは出ないのに壱くんは綺麗に微笑んだ。
「大丈夫、何も心配しないで琴莉」
「でも……」
「それより、今度こそ二人きりで愛し合おう?……もう我慢できない」
壱くんがそう言って口づけをしてくれば、反射のように口づけを受け入れてしまう。
縺れるように唇を合わせながら、開かれた扉の中に二人で入る。

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