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哀色夜伽草紙
第8章 突然降りた幕
私の別の焦りには気付かない壱くんは私をシーツに横たえて、いつものように二人の夜が始まる。

ゆらゆらと揺らめくダウンライトにブルーグレーの壱くんの目がキラキラと光るのが見えた。

いつもの光景にどこか安堵して身体を完全に壱くんに任せ、身体中にキスをされ……いよいよ脚を割ってきたその時……

壱くんの動きが止まった。

まるで壊れたおもちゃの人形のように動きを止めた壱くん。

顔の表情がみるみる失われ、私を見下ろす目が虚ろで昏い。


「壱、くん……?」

恐ろしくなった私は脚を戻し体勢を変えて座り、壱くんの腕に恐る恐る触れた

「琴莉」

気付けば壱くんの瞳から涙がハラハラと流れていた。

「え…」

あまり泣かない壱くんの涙に激しく動揺してしまう。なぜ?何故泣くの?

「とうとうオレを見限った?」

「何を言うの?」

訳がわからなくて狼狽えていると壱くんが急に肩に噛みついてきた。

「いたっ」

「渡さない絶対に」

虚ろな目は一変して、見たことの無い燃えるような目でこちらを見てから私の肩を投げつけるようにベッドに押し付けた。


「痛い、やめて」

「イヤだ止めない」

さらに肩を掴まれてベッドにギュッと押し付けられればいつもと違う強い力は私逃げ出せない。

いつも壱くんは私には優しく触れてくれるのに。

それに声が硬く、唇がぶるぶると震えているのが見えた。

「なぜ……?なぜ裏切った……」

「な、に……何のこと?」

ブルーグレーの目に深い穴のような暗い闇が灯り、見つめられた私はその目に縛られて動けなくなる。

するりと、壱くんの指が急に私の脚の付け根を撫でた。

「ヒッ…な…」

「ここに……痕がある」

「え?」

そこは私には簡単には見えない場所。

「付けられたばかりの痕だよな」

(まさかあれは現実……)


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