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せりか物語
第5章 せりかとの別れ
プロローグ
さて、聡明な読者は、一番最初の出会いの話で出てきたCD(completely defeated)について、まだ何も語られていない事に気づいているであろう。簡単に言えば人口増加に対して地球政府がとった政策が、身分によって階級を分けるネオ・カースト制であり、CDはその最下層に当たる。CDは有事の際にその命をかけて人類を守るために制定されたと憲法にもある。しかしながら実情は、ネオ・カースト制におけるトップであり、国家権力の中枢のひと握りの 完全なる勝利者PW(perfect winner) しか知らない。

CDとは完全なる敗北者の略語であり、何かしら事情があってその生命すら国家に委ねた人びとと一般には考えられている。CDであるか否かは本人とその保護責任者以外にはわからないし、自らCDであると公表することはネオ・カースト制の根本を揺るがせかねないという見解から、固く禁じられている。

CDが非人道的扱いを受けている事は、上層部の間ではほぼ周知の事実である。国家間の抗争にはまずCDが前線へ送られてきたし、人類未体験のウイルス疾患の治療のためと称してCDに人為的にウイルス感染が施されたこともあった。こういった人体実験は本来禁止されているのだが、CDには適応されないらしい。憲法にも、有事の際にその命をかけて人類を守るために制定された、とだけあり、法律的に明確には人類のカテゴリーには属さないとも言える。

ネオ・カースト制がCDという最下層を設定した理由は明らかではない。しかしネオ・カースト制が人口増加に対する政策であることを考えると、CDは 国家の定めた死すべき人びと であると言うことも出来る。

一般人にとっては、CDの存在は空気のようなものといえよう。いくら有っても困らないが、無いと困る。こうしてCDの存在意義が人びとの中で希薄になっていった。CDには自分はならないという、漠然とした根拠のない自信のもとに。
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