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せりか物語
第2章 せりかとの初デート
初めて出会ったあの日以来、せりかはマスターに気に入られ、7つの壁の穴でバイトをするようになった。バイトといってももちろん過激なショーの出演ではなく、バーのウェイトレスとしてだが、この店では裏の仕事も多い筈。

それにしても無口な娘だ。考えてみりゃ、まともな会話はまだ無い。声すら聞いたのはマスターにする、はい、くらいなもんだ。いや、そういや、あの日、ご開通直前に確かに俺に言ったっけ。「お願い、いれないで!私、このままがいい.... 」って。よし、今日はこいつを餌にして、と。

「なぁ、頼むよ。」と、俺はすでにお願いモードに入っている。せりかの野郎、バーのカウンター越しに2時間近く差し向かいで、俺が何度呼びかけても、眼をあげようともしない。見かねてマスターが、水くらいついでやんな、と言ってくれたので、氷も溶けたグラスに、水を注ごうとする。そこで俺の他人を茶化す悪い癖が予定外のタイミングで出た。「お願い、いれないで!私、このままがいい.... 」って言っちゃったんだ。いきなり冷水を頭からかぶることになる。まだ何か恐ろしいオーラを感じる。次はグラスが飛んでくるって思った瞬間、マスターが割って入ってくれた。やめとけ、これでも客だ、ってさ。

追い出される気分で店を出ようとした時、マスターがせりかの耳元で何かささやいた。お陰で、俺は今、世界一、思いっ切り、不機嫌なオンナと業務命令によるデートをしている。マスター紹介のお店に入り、小さなテーブルを高さのあるチェアで向かい合わせに座る。せりかのヤツ、こっちをまるで見ようともしないから、こっちからは割と見つめることができる。やっぱりかわいい女の子だ。とりあえず仲直りしなくちゃ。

「さっきはさぁ」と切り出してみる。不意をつかれた彼女とやっと視線が会った。「ごめん、あんな事、言うつもりじゃなかった。」と、口が勝手に喋りはじめる。「いいの、もう」彼女が初めて喋った!「それよりもあなた、私をいいところへ連れて行かなきゃ、7つの壁の穴には今後出入り禁止ってマスターが伝えろって、さぁ、伝えたから、私は帰るわ。じ」と、そこでいきなり彼女は眠り込んでしまった。
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