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プリティ・ウーマン
第3章 瞳の中の黒真珠
「こんにちは〜!」
普段より3トーンくらい明るい声を出して、エレベーターのスイッチを押しながらお客様を出迎える。
これが私達風俗嬢の❝スイッチ❞のオン・オフの切り替えタイミングだろう。
それまでは偉そうに煙草をふかしていても、好きなホストを思い浮かべて病んで泣いていても、それを悟られないように笑顔を作って、第一印象を相手に植え付ける。
「……。」
普段は、小汚いオジサンや背の低いヲタクっぽい男の人がそそくさと出て来るエレベーター…。
そしてひどい人は、歯を磨く前だと言うのに、手を洗う前だと言うのに、身体を触ろうとするしキスもしようとする。
それを可愛く跳ね除けるのも私達の仕事なのだけど…どうやら今日一人目のお客さんはどこか雰囲気が違う。
身長は180センチはあるだろうか。
キッチリと手入れされた黒髪はジャニーズっぽいセットがされている。──ラルフローレンのシンプルなロゴが小さく胸元にある白色のシャツにアレクサンダー・マックイーンの細身のスキニー。
足元のスニーカーはシャネルのロゴが入ってる。
すごくシンプルなコーディネートのはずなのに…好きな女の子に会う為にオシャレしてきたであろう今まで見てきたどんなお客さんよりも洗練されて見えた。
黒色のマスクは顔が小さいのに少し大き目。おかげで目元しか見えないけれど…その目元すらハッキリ見せたくないのか、思いきりうつむき加減で下を見ている。
「緊張してんの〜?」
「……。」
「あら、まさかの無視?ま、いいや。服脱ぐ前だったら無料でチェンジ出来るからもし嫌なら言ってね。とりあえず部屋入ろっか。」
──これは、キタ。
ホロスコープ的に言うと『水瓶座が強い』私。
元々、マイペースでわが道を行く私には、俺は風俗マスターだから…と言わんばかりに自分から仕切りに来るお客さんよりも、こういう人の方が案外やりやすかったりする。
ま、それでも挨拶位はしてほしいけどね。
深く気にする事無く、さあさあ。ともう一回同じ言葉を掛けてから彼の背中を軽く押す。
すると、彼も扉の開いている部屋が私達の部屋だと分かったのか踵を返す事なく、とりあえず部屋の方へ向かって歩き出した。