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前戯指南
第2章 前戯指南
「そんなに固くならなくていいよ。とりあえず、お風呂沸かしてくるから」
「は、はい……」
エルカが風呂場に行くと、晴臣は財布から1万円を出した。緊張のあまり、1万円札をくしゃりと握ってしまった。
「あ、やべ……」
慌ててシワ伸ばしをしていると水の音が聞こえ、エルカが戻ってきた。

「何してるの?」
「えっと、これ……」
晴臣は気まずそうにしわくちゃになった1万円札を差し出す。
「ありがとう。確かに受け取ったわ」
エルカは気にする様子なく、1万円札を財布にしまった。

「お風呂、10分くらいで沸くから」
「そうですか……」
「もう、緊張しすぎだって」
エルカは晴臣の背中をバンバン叩く。

「緊張するなって方が、無理な話です……」
「ふふっ、可愛いなぁ」
今度は頬をつつかれる。
「そんなに緊張してたら、勃つものも勃たないよ? ほら、深呼吸。吸ってー、吐いてー」
エルカの声に合わせて深呼吸すると、少しだけ楽になった気がした。

「あ、そういえばお金は……」
「後払いでいいよ。ちなみにホテルの支払いは、自動精算機だから帰りになるよ」
「そうですか……」
晴臣は小さなため息をつくと、視線を宙にさ迷わせた。

「本当に女性慣れしてないんだね、晴臣くんは。顔はいいんだから、彼女以外からの女の子から告白されたことあるんじゃない?」
エルカはおかしそうに、クスクス笑いながら言う。
「そんな、ないですよ……。今は外見に気をつかってますけど、高校生の頃なんか無頓着で、誰も近寄って来なかったです。髪も、ボサボサでしたし……」
「ってことは、大学デビューして初カノできた感じ?」
「えぇ、まぁ……」
晴臣は気まずそうに返事をしながら、エルカから目をそらした。

「なんかいいね、キラキラしててさ」
「そう、でしょうか?」
憧憬の目をむけられ、晴臣はドギマギしながら言葉を返す。
「なんか青春って感じ。私は、そういう本気の恋とかしてこなかったからさ」
「エルカさん……」
どこか寂しげなエルカの表情に、晴臣はなんと声をかけていいのか迷った。
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