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泥だらけのお姫様
第5章 踏み入れた世界
 ほどなくして、優希は荷物を纏めて、出ていった。
 
 買い出しでなんばに行くと見慣れた顔に出逢ったが、声はかけなかった。一度だけ話したことのある人。木崎瞬(きざき しゅん)さん。

 優衣さんのアパートの下で会った。

「もしかして、こないだのスーツの男性の……」

「そうよ! 彼女にどうしても一言、言いたいのよ!」

 それをとめられた。

「苦しいのは、辛いのは分かります。けど、あの人達は、もう終わったんです。このアパートの彼女は、前に進みます。北海道に帰って、自分の本当に大切な人と向き合おうって……。まあ、妻から聞いた話なんですけれども。俺には色々強要することはできないけど、今、貴女がいくと話が余計にこんがらがりますし、それに仕事……。なんて、俺にはうまく言えないけど、妻から色々聞いて……」

 それから、瞬さんの奥さんとも一瞬だけ会って……。

 悔しかった。嘘、偽りなく信頼し合ってる2人が。こんなに愛し合っている夫婦がいるのにどうして私達は……。

 けれど、仕方ない。その引き金を引いたのは私。優祐とどうしても結婚したかったのは私。だけど、優祐がどんな人でも離婚はしたくない。こんな仕打ちをされているのに、優祐を愛している。だけど、寂しい。苦しさと寂しさの葛藤。

「ねぇねぇ、そこのお姉さん! 稼げる仕事興味ない?」

 ひっかけ橋のところで声をかけてきて渡されたチラシ。

「CLUB BUTTERFLY(くらぶばたふらい)スタッフ募集」

 そうか。もうすぐ夜なのか。

 優希が踏み出して、寂しい気持ちがそうさせたのか、あの日を思い出したのか。

「……はい。興味あります」

 自然とそう答えていた。
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