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狼に囚われた姫君の閨房録
第17章 総司の肺結核
診察の間、私は副長室に呼ばれていた。
雨脚が強くなり始めた。稲妻が空を走った。
「総司のことだが……」
私の正面に胡坐している歳三は腕を組んだ。
「今後、あいつの看護はしなくていい」
「どうしてですか?」
思わず、身を乗り出す私。
「総司は肺結核にかかってる。お前にうつったら、厄介だからな」
「嫌です」
「すみれ、俺の言うことが……」 
「肺結核はうつるとは限りません。どうか、お世話をさせてくださいませ」
「だめだ!」
歳三は声を荒げた。そして、声のトーンを落とした。
「総司がそう言ったんだよ」
「兄上さまが……?」
「お前にだけはうつしたくないそうだ。お前が大事なんだよ。あいつの気持ち、わかってやれ」
私は脇を向いた。長い睫毛を涙が濡らす。
総司は死を覚悟しているのだ。
外は本降りになっていた。雷鳴が轟き、庭は雨のすだれでけぶっていた。
「……代わりの看病は、誰がするのですか?」
「野村と相馬だ。あいつらは健康体だから、お前よりはうつらねえだろうさ」
私はその場に突っ伏した。
桜田門外の変で、私は最愛の父を失った。今度は、大好きな兄まで失うのか?
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