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狼に囚われた姫君の閨房録
第23章 山南脱走
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元治二年の二月。
雪の季節は去った。桜のつぼみが膨らみ始める時期になった。
騒ぎ声に、私は微睡を破られた。
「お目覚めですか?お嬢さん」
「開けていいか?」
障子の向こうで、主計と利三郎の声がした。私の返事を待たずに、障子はさっさと開けられた。
「おはようございます」
水の張った盥と朝餉の膳を捧げた主計と利三郎が現れた。
洗顔の盥はともかく、お膳とは。
ここで食べろというの? 広間には行くなということ?
「何かあったの?」
私が盥で洗顔しながら問うと、主計も利三郎も戸惑った顔をした。
二人とも、すぐに顔に出るんだから。
「あったのね?」
「総長が脱走したんだよ」
私に手拭いを渡しながら、利三郎の太い眉根が寄せられた。
「江戸に戻るって書き置きがあった」
手拭いで顔をふこうとした私の手が止まった。脱走?それって……!
「追っ手は沖田さんだそうです。屯所は上を下への大騒ぎで……総長には切腹の沙汰が下りるかと」
どうして、脱走なんて……私の体が震えだす。主計が私の肩をがっしりと掴んだ。
「気をしっかりともってください。俺がいます。俺がお嬢さんを守ります」
「沖田さんのお供をするからもう行くけど、あんまり心配するなよ、お嬢」
利三郎は足早に出ていった。
主計がてきぱきと布団をたたむ。そして、食膳を私の前に据えた。
「お食事をどうぞ」
どうぞと言われても、食欲がない。
「召し上がってください。局長や副長が心配されます」
私はおとなしく座って箸を取った。
お煮しめと干物、お吸い物に柴漬けの一汁三菜。味わう余裕はなかったけど、それでも私は食べ続けた。
「今日はずっとついていてくれるんですよね?」
「もちろんです。副長の命です。なんでも、申し付けてください」
意気揚々と言う主計に私は苦笑した。
山南が連れ戻されるまで、私は自室に留め置かれるということか。
万が一にも、山南を追いかける総司を心配して、私が追ってはいけないということだろう。
(……お見通しか)
朝餉を終えると、私は主計にしなだれかかった。
雪の季節は去った。桜のつぼみが膨らみ始める時期になった。
騒ぎ声に、私は微睡を破られた。
「お目覚めですか?お嬢さん」
「開けていいか?」
障子の向こうで、主計と利三郎の声がした。私の返事を待たずに、障子はさっさと開けられた。
「おはようございます」
水の張った盥と朝餉の膳を捧げた主計と利三郎が現れた。
洗顔の盥はともかく、お膳とは。
ここで食べろというの? 広間には行くなということ?
「何かあったの?」
私が盥で洗顔しながら問うと、主計も利三郎も戸惑った顔をした。
二人とも、すぐに顔に出るんだから。
「あったのね?」
「総長が脱走したんだよ」
私に手拭いを渡しながら、利三郎の太い眉根が寄せられた。
「江戸に戻るって書き置きがあった」
手拭いで顔をふこうとした私の手が止まった。脱走?それって……!
「追っ手は沖田さんだそうです。屯所は上を下への大騒ぎで……総長には切腹の沙汰が下りるかと」
どうして、脱走なんて……私の体が震えだす。主計が私の肩をがっしりと掴んだ。
「気をしっかりともってください。俺がいます。俺がお嬢さんを守ります」
「沖田さんのお供をするからもう行くけど、あんまり心配するなよ、お嬢」
利三郎は足早に出ていった。
主計がてきぱきと布団をたたむ。そして、食膳を私の前に据えた。
「お食事をどうぞ」
どうぞと言われても、食欲がない。
「召し上がってください。局長や副長が心配されます」
私はおとなしく座って箸を取った。
お煮しめと干物、お吸い物に柴漬けの一汁三菜。味わう余裕はなかったけど、それでも私は食べ続けた。
「今日はずっとついていてくれるんですよね?」
「もちろんです。副長の命です。なんでも、申し付けてください」
意気揚々と言う主計に私は苦笑した。
山南が連れ戻されるまで、私は自室に留め置かれるということか。
万が一にも、山南を追いかける総司を心配して、私が追ってはいけないということだろう。
(……お見通しか)
朝餉を終えると、私は主計にしなだれかかった。
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