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狼に囚われた姫君の閨房録
第4章 清川の裏切り
「すみれ、寝たか?」
入室してきたのは、一と総司だった。
布団を敷いたままうたた寝をしていた私は、パッと目を覚ました。
「おかえりなさいませ!」
「いい子で待ってたみたいだね。お利口さん」
総司が私の頭を撫でた。
その手は氷水のように冷えていた。ずっと、寒いところにいたのだ。
「囲炉裏にお当たりくださいませ。主計くんと利三郎くんが火を入れてくれました」
私が座布団を用意すると、
「清川八郎は幕府を裏切ったぞ」
言いながら、一は静かに座った。
「浪士組は朝廷に寝返るための兵だったのだ。上申した建白書の写しも見せられた」
「浪士組の結成は、そのためのものだったと?」
「やってくれるよね。僕まんまと、あいつの策略に踊らされたってわけさ」
総司は私を膝に乗せて胡坐した。そして、含み笑いをした。
「芹沢達も様子を見にきてて、すごく怒ってね。ぶった斬ってやるって、えらい剣幕だったよ」
「そこへ、会津藩の佐々木唯三郎どのがこられて、『清川八郎は見廻組が始末するゆえ案じるな』と仰せられた。今は会津藩邸で、父上や兄上ともども、話し合いの真っ最中だ」
「お話し合いとはなんの?」
私が小首を傾げると、総司は私を後ろからギュッと抱きしめた。
「僕たち以外の浪士組は江戸に帰されることになってね。京に残った僕たちの受け入れ先が京都守護職である会津藩なんだよ」
会津藩の藩主は松平容保さま。
気性が激しく、挑戦的で、誰もが嫌がる京都守護職に一番に名乗りをあげたお方だ。
私とも旧知の仲で、
「俺はそなたに惚れているぞ」
と、よく戯言を仰っていたっけ。
「何にしても、すべては容保公のお心次第だ。我らが心配したところで、どうともならぬ」
一が言ったが、私はすでに夢の世界に入っていた。京で、義兄たちが大活躍する楽しい夢を。
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