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狼に囚われた姫君の閨房録
第5章 御前試合
外が明るくなり始めた。小鳥がさえずっている。朝餉の支度の時刻だ。
(いけない。ご飯を炊かなくちゃ……)
起きようとして、私は驚いた。かたわらに、容保様の寝顔があった。
「え……うそっ」
私は辺りを見回した。
龍虎の透かし彫りの欄間、孔雀が描かれた格天井。簾の向こうに、次の間があるようだ。
屯所ではない。会津藩邸なのか?
それに、体が熱っぽい。これは容保様に愛されたことを物語っている。
(あのまま、寝てしまったの?)
それに思い至った瞬間、静かに襖が開かれた。憤りを抑えた表情の一が佇んでいた。
氷の刃のような殺意! それは私の傍の容保様に向けられている。
「ずいぶん、不遜な目つきだな、斉藤よ」
いつから、目を覚ましていたのだろう? 容保さまはゆっくり起き上がった。
「寝所に無断で入り込むとは、無粋にも程があるぜ」
「わが義妹を迎えに上がったまで。無礼はご容赦」
厳しく言い捨て、一は私を引き寄せた。
「戻るぞ。朝餉の支度が整っている」
「あの……兄上さま」
「……ご苦労だった」
わずかに漏らした呟きを、私は聞き逃さなかった。ご苦労だったって、どういうこと?
容保さまが生欠伸を一つした。
「斎藤、土方や近藤に伝えろ。壬生浪士組の身柄、たしかに、会津藩が引き受けるとな」
一は片膝をついた。
「ありがたき幸せ」
「すみれを差し出さなくても、俺はお前たちを引き受けるつもりだったぞ。腕が立つことくらい、一目でわかるからな」
(私を差し出さなくても? まさか、それって……)
会津藩を後ろ盾にさせるために、私を人身御供にしたということか?
「恐れ入ります」
無愛想に応える一に、容保さまは破顔った。
「愛嬌のない男よの。すみれが惚れたのも、そんな無骨なところか?」
「なんのことやら……」
「俺がすみれを抱こうとしたのを、見ていたであろうが。嫉妬したか?」
一の顔色が変わった。私の手を荒っぽく掴むと、早々に藩邸を後にした。
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