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狼に囚われた姫君の閨房録
第7章 大阪力士事件
文久三年五月の終わり頃。よく晴れていて、雲が数朶流れていた。
私は総司と一に、副長室に連れて行かれた。
「すみれちゃんを大阪に連れて行きますが、構わないですよね?」
襖を開けるなり言い放った総司に、歳三は思い切り顔をしかめた。
「失礼します。くらい言いやがれ」
私は慌てて膝を揃え、入り側に手を支えた。一も一礼した。
出かけるところだったのか、歳三は羽織に手を通した。
「で、すみれを大阪に連れていくって?」
「来月、大阪に行くことになってますよね?大阪奉行所の依頼で」
総司が言うと、歳三はうなずいた。
「浪士を捕らえるためにな。京都所司代に行くから、俺は行けねえが」
「そう手間はかからないと思うんですよ。僕や一くんだけでなく、お父さんも行くし」
「だから?」
「寄り道してもいいですよね?って話です。すみれちゃんに大阪のうまいものを食べさせたくてね」
「遊びに行くわけじゃねえんだぞ」
「わかってますけど」
総司は私の頭を撫でた。
「すみれちゃんはほとんど屯所から出れないんですよ。容保公の藩邸に行くくらいでしょ?たまには、いいかなって」
「そりゃそうだが、すみれは……」
歳三は口籠った。何を言いたいかはわかる。
私はもともと大老の姫だ。彦根城でも、江戸の彦根藩邸でも、外出したことはほとんどなかった。
この屯所でも、変わらない。
大老に託された私に怪我をさせては、と歳三は案じている。見回りにも、同行させないくらいだから。
「すみれの安全は俺たちが保証します」
と、一。
「かすり傷一つつけないと、お約束します。どうか、すみれに他出のお許しを」
「すみれ」
「あ、はい」
「お前はどうだ? 行きてえか?」
控えめな所作で、私はそっと一礼した。
「天下の台所・大阪。この目で見れるならば、感激でございます」
「まったく、好奇心旺盛なお姫さんだぜ」
歳三は苦笑いした。
「いいだろう。行ってこい。だが、芹沢鴨も一緒だからな。奴には用心しろよ」
「ありがとうぞんじます」
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