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スカーレット オーク
第55章 55 緋襷(ひだすき)
「風呂ためるから書斎ででも待ってて」
 直樹は緋紗を書斎に通して風呂の用意をしに行きバスタオルをかごに出してから戻った。
「あ、借りてます」

 緋紗は漫画を読んでいた。

「そんなの読むの?」

 直樹の一番好きな漫画だったが少しマニアックな内容だ。

「ええ。一番好きな漫画でずっと持ってたんですが手放しちゃって」
「そう。それ読んでる人少ないよね」
「そうなんです。女友達なんかこの漫画家さえ知ってる子いなかったですよ」

 ――緋紗もマニアックだなあ。

 同性の友人でもなかなか趣味が被らないうえに、まして女性ではなおさら皆無だろうと思っていた直樹には緋紗の存在が今更ながら不思議だった。

「僕も一番好きな漫画なんだ」

 そういうと緋紗の顔がぱっと明るくなって「ほんとですか?」と嬉しそうに言う。

「そろそろお風呂に入れるよ。はいっておいで。僕は酒の用意でもするよ」

 直樹が風呂を勧めると緋紗がバッグから小さな包みを取り出した。

「これ使ってください」

 丁寧な梱包を外すと中に二個、高さ十二センチくらいで筒形の備前焼のグラスが入っていた。

「緋襷?作ったの?」
「はい。春の窯に入れさせてもらったんです。直樹さんと私の」
「綺麗な赤色だね。軽く洗って使おうか」
「はい」

 嬉しそうにしている緋紗を風呂場へ連れて行った。

「タオルこれ使って」
「ありがとうございます」

 多少の説明をして直樹はその場を離れた。寝室に小さなローテーブルをだし、氷とジンとベルモットを用意する。
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