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スカーレット オーク
第58章 58 恋人たち
 寝室でまたマティーニを作って飲んだ。

「明後日、帰る日だね」
「早いですね。あっという間」
「小夜子さんが夜来いって言ってたな」
「少し早めに行って散歩してもいいですか?」
「うん。いいよ」

 直樹は後ろから緋紗を抱えて座って飲んでいた。
なんとなく緋紗が懐いた猫のように直樹のそばにいる。
あれだけ身体が繋がっていても、どこか一線を引いていたような緋紗が『好き』だという言葉一つでその垣根を飛び越えてきたような気がする。――これが恋人ってことか。

 直樹は今まで一人で自由に過ごしてきた充実感とまた違った満足感があると思った。
緋紗がそばにいることがとても自然で、ずっとこうしてきたかのような気持ちにすらなる。
飲みながらなんとなく緋紗の身体を弄ると、彼女も飲みながら身体を摺り寄せてくる。
頬を撫でると緋紗は直樹の指先にキスをし、その指を軽く噛んで吸い付いたりなめたりした。――やっぱりネコ科だな。

 昼間のヒョウ柄の水着を思い出してくすりと笑うと、「なんですか?」 と、緋紗が聞いてきた。

「いや。なんでも」

 咳払いをしてごまかしたが緋紗は怪訝そうに見る。

「明日も泳ぎに行こうか」
「もうあんなことしないで下さいよ」
「うん。本当に反省してるから。もうしません」
「ほんとに怖かったんですからね」

 緋紗は口を尖らせた。

「好きだよ」

 耳元でささやく。

「――私もです」

 直樹はグラスを置いて本格的に緋紗を愛撫始めた。
 何度も何度も口づけをした。

抱き合いながら緋紗が『好き』と『気持ちいい』を何度か口にする。
ずっと言いたかったのだろうか。

言葉は二人にとって記号でしかなかったが、改めてそう言われると直樹も緋紗をいつもより抱きしめる力が強くなる。――緋紗に燃やされてしまってもいい。

 いつもとほとんど変わらない行為なのに深く相手に入り込む気がする。
恋人として初めて過ごす夜だからかもしれない。

愛し合った後二人は緋紗の焼いたグラスのように抱き合って眠った。
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