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スカーレット オーク
第61章 61 プロポーズ
「私も同じことを考えていたんです。陶芸を辞めてここに来るつもりでした」

 直樹ははっとして緋紗を見つめた。

「直樹さんが私の陶芸のことを考えてくれて本当にうれしいです。今まで陶芸を辞めてほしいと言われたことはありましたけど……。私は陶芸を選んできたんです。でも直樹さんのそばに居られるなら辞めてもいいと思ってここに来ました。今、直樹さんが森の仕事を辞めるって聞いて……。私、間違ってるかもと思ったんです」

 直樹は緋紗の話を静かに聞いたあと自分の思いを話した。

「僕はこの仕事を始めることにしたときに彼女がすごく反対してね。やっていけないって言われたんだ。結婚すれば子供だってできるし子供の将来とか老後とか経済的な見通しが全く立てられないってね。その時は結婚どころかそんな先のことなんてどっちでも良くて好きなことをする方が大事だったんだ。でも今は緋紗と一緒にいられる事のほうが大事なんだ」

 少しの沈黙の後、緋紗が話し始めた。

「私の好きな作家の小説の中に、少女が自由に駆け回る獣に恋をする話があるんです。獣も少女が好きになって彼女のものになるために檻に入るんですけど……」
「走らない獣に魅力が感じられなくなって少女は獣を見なくなり、そして獣は死ぬんだったよね」

 直樹は先をつづけた。
死んだように魂が抜けた空っぽの身体でも抱き合っていれば、一緒に時間を過ごすことはできるかもしれない。

しかし今のような歓びはないだろう。
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