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スカーレット オーク
第16章 16 静岡へ
 直樹が斧で薪を割っているとペンションのオーナー、吉田和夫が声をかけてきた。

「もうそろそろ迎えの時間だろ」
「ああ。もうそんな時間ですか」
「今日はもう、こんなもんでいいぞ」
「そうですか?また帰ってきたら続きやりますけど」
「いいよいいよ。今夜は今夜であれをやってもらうつもりだし。午後は連れに仕事を教えてやってくれ」
「わかりました。じゃあそろそろ行ってきます」

 直樹がここで年末年始のバイトを始めてから四年目になる。
林業に就いてから講習会で知り合ったのが吉田和夫で、元々東京で営業マンだったのだが田舎暮らしがしたくなり、都会の生活を捨て四十歳を期にIターンしてきた。

知り合いになるきっかけだった講習会は『薪づくり』だった。
講習会では四十代五十代のやはりUターン、Iターン希望者が多い中、一人二十代であり、すでに林業に就いているにも関わらず参加している直樹に吉田は興味を持つ。
吉田には二十代で仕事の時間以外を、また仕事のような時間に費やすことが不思議に映ったらしい。
しかも吉田が二十代の時は『休みは女性と遊ぶもの』だったので直樹のような草食男子が異端だったのだ。

 今でも直樹の草食っぷりが不思議だがペンションをやるにあたって少し男手がほしかったのと、ストイックな感じが安心できたので直樹にアルバイトの話を持ち掛けた。
最初の一年は月一で手伝ってもらっていたが、ペンションの経営が落ち着くのと吉田の慣れによって、今は年末年始の直樹の休みの時にだけ手伝ってもらっている。

しかし直樹の環境が変わればこの年末年始のアルバイトもどうなるかわからない。――彼女とかいないのかねえ。

 手伝ってくれるのはありがたいのだがずっと独りでいる直樹に心配をしなくもなかった。
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