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遠き記憶を染める色【完結】
第2章 彼の事情
彼の事情



「はいよう…、なんらあ、テレビでえらい人気だから、サダトちゃんはよう。この辺のぶさいくな娘がさ、今度ここへ来るってんで、手ぐすね引いて待ってるらしいってねえ…。潮田さんの本家さんには、若い女の子が30人くらい押しかけてくるだろうから、気をつけなきゃいけないよって…。向かいの珠代さんが心配してくれてさあ」


御年85歳になる磯彦の母、枝津子は総入れ歯なので、長言になると、口元には唾液を数筋滴らせるが、滑舌は良い。


「本家のおばさん、そりゃ、大げさだよ。レッツロールはヤンちゃん系ではもうお年寄りのアイドルで、あの世界じゃあ、トウがたってるらしいですから」


流子とは父方のいとこ、鮎男は得意(持病?)の皮肉で、ある意味”彼らの実際”をこの場で晒した。


「まったく、鮎男ちゃんはひねくれてるねえ。なんたって、大岬じゃあ、さびれた俳優一人出てなかったんだよ。なのに、サダちゃんはイケメンとかのアイドルでテレビに出まくってて。偉いよう…。素直に、すごいねえー、偉いねーって言えないのかねえ、あんたはさあ…」


「…」

流子の叔母に当たる海子はたまたま、嫁ぎ先の千葉北西部から、泊りがけで帰省していた。
彼女は竹を割ったような性格で、鮎男には天敵、流子とは手の合う仲だった。


***


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