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飛べないあの子
第3章 届きそうな距離
電車が駅のホームに滑り込む。
電車が揺れたのか、慧が凛を引き寄せたのか。
一瞬、きゅっと抱きしめられた。

「・・・・・・・・・」

本当に一瞬の出来事で、気のせいだったかなと思うほどすぐに体が離れた。
ドアが開いて、慌てて慧から離れる。

「あ・・・・・じゃ、じゃあ」

凛は下車した人々の流れに乗って、振り向かずに歩いていった。
手や腰に感じた慧の手の感触がはっきりと残っている。
凛の心の中に生まれた感情に、戸惑う。

(違う違う、これはそういうのじゃなくて・・・・・・・)

凛は落ち着こうとして、人の流れから外れて立ち止まった。
心の中で違うんだと否定する部分が、あっという間に浸食されて消えかける。

『もっと抱きしめて欲しい』

凛は一点を見つめて自分の感情を何度も確認する。
今まで慧に触れられる度に感じていたものとは全く次元の違う、強い欲求だった。
凛の中では、慧は男としてというより、頭が良いという点で憧れるという要素の方が大きかった。
それが逆転してしまったようだ。

しばしの間、違う違う・・・・・・と心の中で繰り返すが、無駄な抵抗だった。
凛はため息をついて、抵抗するのをやめた。

(まあ・・・・・・・なるべくしてなったというか・・・・・)

慧の策略にはまったような気がして、まだどこか素直になれない部分もあるが、一度気づいてしまうともう抗えなかった。
かといって、慧の本心がはっきりしない以上は、自分から率先して慧にアプローチする気もなかった。

「なるようになるか・・・・・・」と心で呟いて、凛は歩き出した。
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