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あの時、あのBARで
第2章  BAR・Remembrance

 このBARにたどり着く前、私は雷に打たれたようなショックを受けていた。
不倫相手のマンションの部屋を訪ねたら、彼の奥さんが出てきたのだ。
とっさに部屋を間違えたふりをして、逃げるようにその場を去った。

 冷静だったような、パニックになっていたような、どっちだかわからないけど
とにかく夜の街を彷徨い、どこか居場所を見つけたかった。
 とりあえず六本木にやって来て、それから麻布方面に向かって裏路地を歩いていて
見つけたのが、この店だった。テラス席を横目に店に入りカウンターに座った。
バーテンの背後には大きな水槽があり、
熱帯魚が独りぼっちの私を優雅なダンスで慰めてくれた。
 ほんの一時間ほど前の出来事を頭の中で反芻し、してはいけない恋の終わりを
このお気に入りのオーバーナイトケースと共に受け止めていると、隣から声がした。
そのバッグ、どこで?ととても驚いた様子で声をかけてきたのが雅也だった。
リサイクルショップでとても気に入って手に入れたと答えると、
なんと雅也がパリでオーダーして恋人にプレゼントした物だと言うではないか。
言われるままに中を確かめ証拠の刻印を見つけた時には私も、それはそれは驚いた。

 そう、すべてが驚き続きの夜だった。
私にとって突然の別れ、初めて入ったバーで自分のバッグが知らない男の目に留まり、
さらにはその男がバッグの最初の購入者で、その彼は送った相手が
プレゼントされたバッグをリサイクルしてしまった事実を知らされた・・・



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