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第6章 幸せのタイムリミット

石垣は某大企業で取締役にまで出世したのだが、家族と折り合いが悪かったりする生活に嫌気がさして定年退職後に何もかも捨ててこの街にやってきた。

話を聞いて奏は石垣が自分に似ている境遇だと感じた。それにしてもこの街には何かから逃げてやってくる人が本当に多い。傷ついた心を充分に癒してくれるステキな街だからだとも思う。自分も何もかも捨ててこの街に暮らせたらどんなに幸せか・・。

石垣はこの街にきて物件をふたつ買った。ひとつは中古の住宅で自分の居住用。この物件は聞けば奏の宿舎のわりと近くにある。

そしてもうひとつがこの『囲炉裏』。元々は違う店に使われていたのを居抜きで買ったらしい。
みんなが気がねなくくつろげる店を持つのが石垣の夢だった。だから名前も『囲炉裏』にしたのだ。

愛美が新しい店ができるのを知って、自分が自家製で作っているマスタードマヨネーズ等を使ってもらおうと売りこみに来たのが石垣と愛美の出会いだった。

マスタードマヨネーズをすぐに気に入ったと楽しそうに話す石垣を見て奏も嬉しくなったし誇らしくもあった。

マスタードマヨネーズや愛美というキャラを気に入った石垣は店を任せてもいいと思って自分はオーナーになることに決めたのだという。

「いや～、それにしても素晴らしい演奏を見ることができて本当に幸せだった。余生を過ごすのをこの街にして本当によかった」

と石垣は嬉しそうに奏と何度目かの乾杯をした。
奏が指揮をする吹奏楽の演奏をすっかり気に入ったようである。

「そうちゃんパパとてもカッコよかったでしょ」
と陽葵も嬉しそうにプリキュアのスティックを指揮棒のように振って真似をしてみせた。

「とってもカッコよかったね・・本当にいい男じゃないか。愛美ちゃんや陽葵ちゃんを幸せにしてあげてくれよ」

と言って石垣は嬉しそうに奏にビールを注いだ。

「もう、石垣さんったら」と愛美は少し照れて顔を赤くする。

その様子は本当の父親と娘のようである。
この雰囲気に奏はリサとたこ焼き屋に行った時のことを想い出して懐かしい気持ちになっていた。
そういえば石垣はあのたこ焼き屋のおっちゃんに少し雰囲気が似ているかも知れない。

「おっと、あまり遅くなって家族の邪魔をしちゃいけないね。今夜はこれで失礼するよ」と石垣は仲間と一緒に上機嫌で帰っていった。