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マスタード
第6章 幸せのタイムリミット
少し膨れ顔をした愛美が可愛くて今度は奏が笑った。

「奏ちゃんは何をお願いしたの?」

神頼みなんてしないで自分がもっと頑張らなくちゃダメだと自分を戒めながらも不登校の生徒の問題が解決するように祈った。
それからもちろん愛美と陽葵とずっと一緒にいたいと願った。

「ちょっと仕事のことと・・ずっと愛美と陽葵と一緒にいたいってお祈りしちゃった」

「あたしも同じだ」

愛美も『囲炉裏』が順調に続くことと奏がずっとここにいてくれることをお祈りしたのだった。

身上書も却下されたし叶うはずのないことが本当になったらそれこそキセキだと思う。でも、離婚もでにかいまま愛美と陽葵を愛している不倫の恋のことなんてお願いしてしまってキセキどころか罰が当たらないかとお祈りしたことを後悔もしていた。

愛美は奏がちょっとうかない顔をしたのを見逃さずに奏の気持ちを悟った。

「奏ちゃんは立派にあたしたちを愛してくれるし、あたしも奏ちゃんを愛してるんだからキセキは起こるよ」

カップルで手を触れると幸せになれるというパワースポットの御神木に奏と愛美と陽葵は手を繋いで触れてお祈りをした。

陽葵を真ん中に手を繋いで歩く幸せそうな姿は誰の目にも本当の親子のように見えていた。

奏は3学期はより一層親身になって不登校の女子生徒笑美の家を毎日のように訪問した。お祭りの時や大会で演奏する吹奏楽のDVDを渡したりもしたし、奏の想いに打たれたクラスや吹奏楽の生徒も一緒に来てくれるようになった。

「ボクはダメな教師だけど、この学校が大好きだ。みんなのことが大好きだ。もちろん君のことも大好きだ。でも多分異動になってこの学校を去らなければならない。去る前にその名前のように美しい君の笑顔を見せてくれないか」

奏の心が伝わったのか今まで開くことはなかった笑美の部屋のドアがついに開かれた。

「演奏、素晴らしかったよ。あたし・・前の学校では吹奏楽やってたんだ。先生があんなDVD見せるからまた吹奏楽やってみたくなっちゃったじゃない」
と笑美は微笑みながら涙を流した。

「もちろん吹奏楽は君を歓迎するよ」

一緒に来てくれた吹奏楽部の仲間たちも笑顔で頷いた。

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