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マスタード
第7章 奏ちゃんパパは単身赴任
ぎゅっと抱き合ってふたりはお互いの体温を感じていた。温かい、今確かに生きているんだと命の鼓動を感じていた。

季節が巡るのは早いもので年が明けるとすぐに新年度がやってくる。
吹奏楽の遠征でまたあの街に行けるのは嬉しいものであるが、転勤して2年も経つと七滝中学吹奏楽部にはもう知っている生徒はいないと思うと寂しくもある。

新年度から奏はまた違う学校へ異動になった。
電車で1時間もかかる所にある学校であるが、あの街に少し近くなったと思うと嬉しくもある。

新年度始めにカウンセリングがある。
社会的騒がれている女性登用の波は学校にも押し寄せていて、同じ歳の女性がカウンセリングを行うような責任のある立場になっていた。
同じ歳の女性にカウンセリングを受けるのは何だかくすぐったい。

生徒との不適切な関係、売買春、盗撮、万引き等々教師による犯罪が多発している風潮なので、そういう危険な芽がないかをいろいろと探るのもカウンセリングの重要な目的である。

雑談も交えて色々な話をして、最後に「不倫とかは大丈夫ですか?」と少し顔を赤らめて訊かれた。
顔色ひとつ変えずに「大丈夫です」ときっぱり答えることができたのは流石だと自分を褒めてあげたい気持ちもあるが、内心はドキドキしていた。

同僚の教師との懇親会の時にカウンセリングの話題になって、同僚たちはデリヘルとか風俗とかは大丈夫かと訊かれたとぼやいていた。

「まったく、オレがそんなことするように見えるかね


「見える見える。お前は分かるとして、何でオレまでそんなことを訊かれたかね」

「お前が一番アブないわ」

と同僚たちは風俗の話題を肴に盛り上がっている。
奏は彼らがデリヘルや風俗が大好きで、性病を伝染されてこっそり治療したこともあるのを知っているので、とんだ狸だと思ったが、自分もとんだ狸だと思った。

「お前は風俗とかデリヘルとか訊かれた?」

と話題が奏にも振られたので、「いや、特に何も」とさらりとかわした。

「そりゃそうだ、真面目が取り柄のヤツだからな」
「男としての危険なオーラもないようじゃ、男としては寂しいよな。それに比べれば良しとするか」

と同僚たちは真面目な奏を肴に盛り上がる。
やっぱり自分が一番の狸だと奏は思った。

それにしても彼らはデリヘルや風俗なのに何で自分だけ不倫だったのだろう。
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