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マスタード
第8章 別離
そしてMCがまたスゴい。短いトークの中にいろいろなネタをぶっこんで、それを見事にまとめて小気味良く喋る。

司会者やアナウンサーもできそうな勢いだと思っていたらラジオ番組も持っていると告知された。

スゴい、スゴ過ぎる。
グルビーズの歌はどれも中毒性が高く、すっかりハマってしまってまた聴きたくなる。

オヤジバンドのメンバーたちもすっかりハマってノリノリで応援しながらも、負けた、完璧に負けた、あんなパフォーマンスはとてもできないと落ち込んでいた。

ステージの後の物販にはオヤジバンドのメンバー全員で行った。
奏は今聴いた歌はまた聴きたくてたまらなくなって、それらが収録されているアルバムを買った。

メンバーそれぞれがサインを入れてくれるのだが、口々にこの街で大人気のオヤジバンドさんと同じステージで歌えるなんて光栄ですとか、オヤジバンドさんに会えて嬉しいと言ってくれた。

こんなスゴい人たちにそんなことを言われるとは恐れ多くて恐縮した。

来年はお祭りもできるはずだから、その時はグルビーズに負けないようにもっと磨きをかけたステージをやろうと誓い合ってオヤジバンドのメンバーと別れた奏は駅に向かって歩き出した。

ステージでは大いに盛り上がったし、仲間との時間も楽しかった。それでも愛美や陽葵に会えない寂しさ、不安で心はどんよりとしていた。

それが、グルビーズの歌で一気に晴れやかになった。早く帰ってCDを聴きたいとワクワクしている。頭の中にはグルビーズの歌が次々とリピート再生されている。

しばし愛美や陽葵のことを忘れていたタイミングで突然LINE電話がかかってきた。あたしたちのことを忘れないでとでもいうように愛美からの着信だった。

無事でいてくれた。連絡できるように落ち着いたんだと安心するのと裏腹に久しぶりに愛美と話す緊張で震える手で通話の操作をする。手が震えたのは何か悪い予感を感じていたからかも知れない。

「イベント行ったんだろ。いい演奏はできたか?」

電話からは男の声が聞こえてきた。この声は聞き覚えがある。確か・・。

「オレだ、秀一だ・・結婚したんだ、オレたち」

思ったとおりの名前に続いて悪い予感が的中した事実が告げられた。悪い予感がしていたせいか、動揺はしているものの冷静に話をしている自分に驚いている。

「オレは最低な男だな。好きな女をカネで奪った」
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