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セレナーデ
第5章 5 夜
 ディナータイムでは沢田雅人の甘いシューマンが流れている。
「赤ちゃんが産まれてからまたピアノいい感じよね」
 和奏が感心して言う。
雅人のピアノは繊細で儚げな印象から暖かく落ち着い演奏へと変貌していた。

「ああ。産まれたの。どっち?男?女?」
「女の子。名前まだ聞いてないけどメロメロだよ」
 面白そうに言う和奏に和夫が「男親ってそんなもんだよ」 目を細めて和奏を見ながら言った。
「ふーん」
 照れ臭そうな和奏を見て優樹も幸せな気持ちになった。

 演奏が終わり雅人が挨拶にやってくる。
「じゃあこれで。失礼します」
「ご苦労様。これから大変そうだけど平気?家庭優先してくれよ。ピアノは和奏もいるしさ」
「ありがとうございます。帰ったらお風呂に入れるんですよ」
 雅人は嬉しそうに頭を下げて帰って行った。
和奏はその昔、雅人が緋紗に長い片思いをしているのを知っていた。
その恋はひっそりと緋紗に知られることなく終わり、縁があった別の女と雅人は結婚した。
(幸せそうだな)
長く辛い片思いに共感していた和奏は心から雅人の幸せそうな姿を祝福していた。


「さて、終わりにしよう。お疲れ様。じゃああとは自由にしてくれ」
「はーい。お疲れ様でした」
 和夫は肩を回しながら部屋に戻って行った。
「露天風呂はいるかな」
 優樹が背伸びをしながら言うと「今日はカップルいないからのんびり入れそうね」 と和奏が笑った。
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