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想い想われ歪なカタチ
第3章 3
「おい、瑠香。上って来い」


顔を真っ赤にしゃがみ込んだ私を余所目に、流牙が下の階のメイドを呼ぶ。


「はい。流牙さま。お呼びですか?」


そこには濡れたような黒の、背の中ほどまである豊かな髪をなびかせ、
紅い唇を艶やかに光らせた美しい女のメイドが居た。


「こいつを着替えさせろ」


「畏まりました。さ、行きましょ?」


瑠香と呼ばれたその綺麗な女のメイドは、私を立ち上がらせると、
クローゼットのみで構成された着衣室に招いた。

この時、既に私は、「あれ?」 と、ヘンな違和感を感じてた。

このメイドは今、流牙のことを『流牙さま』 って言ってなかったっけ?
同僚のメイドたちが流牙のことを呼ぶときは、さん付けするのが普通だ。
“さま”なんて絶対付けない。それは主につけるべきものだから。

それに、今、流牙ってば私のこと、・・『こいつ』呼ばわりしなかったっけ?? 
う、うーん・・・おかしいわ。私、まだ気が動転してるのかしら。

っていうか、このメイド、嫌に馴れ馴れしいし。
『ここはこうやって結ぶのよ』とか、
『ちゃんと覚えて、次は自分で着付けてね』とか。
だいたい、こんなメイド、うちには居なかった筈。初めて見る顔だわ。


「きゃんッ!!」


なんて考えてたら、腰のエプロンを結ぶ紐を思いっきりきつく縛られた。
く、苦しい・・・

「ウエスト、細いわね。羨ましい」

くす と美人のメイドは笑う。

・・・あれ? エプロン?? 

ふと、我を取り戻して自分の新たに着せられた服をよーく見る。

控えめな光沢の濃い紺色のベルベット生地のミニのワンピース。
その上に白色の、淵にフリルのあしらったエプロンは、背中で交差して腰でリボンを結ばれてる。
ミニの下にはやはり白のペチコートが絶妙の長さで見え隠れする。
肩がふわっと膨らんで、袖口は下のシャツを折り返して、
腕と並行に並ぶ真珠色のボタンで留めてある。
頭にはご丁寧に、エプロンと同じく緩やかなフリルの付いた髪留め・・・

ええと・・・・ ええと・・・これは・・・

「サイズはピッタリね。流牙さまがご用意くださったのよ。
 お礼を申し上げなくてはね」

私は悪戯な笑いを見せるメイドを無視して、着替え部屋を飛び出ると
流牙のとこへ怒鳴り込んだ。
流牙は私の部屋に留まったまま、何やら他のメイドたちに指示を与えていたようだ。
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