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真紅の花嫁
第1章 深緑の美術館

「――っ」
指先に鋭い痛みが走った。





人差し指の先端に、小さなが紅い血珠浮かんでいた。
作品の確認に気を取られ、手に持った資料の端で切ったらしい。

ハンカチを出そうとした手を、いきなり横からつかまれた。
何ごとかと不審がるより前に、指先は亮《りょう》の口中に消えていた。

「ちょ、ちょっと……桐原《きりはら》くん……」
あわてて引っ込めようとしたが、強く手首を押さえられる。

矢崎《やざき》真波《まなみ》は呆然として、相手の口元を見つめるしかなかった。

女の細指を含んだ薄い唇が、とてもセクシーだった。
唇だけではない。
何か大切なことに没頭しているかのような生真面目な表情は、端正なマスクをより際立たせた。

(……この子、こんなに綺麗な顔をしてたんだ)

心臓の鼓動が早くなる。
急に体温が上がったような気がした。


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