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氷の戦乙女は人たらし公爵に溺愛される〜甘く淫らに溶かされて〜
第4章 フェガリ
「本だけじゃない。この部屋にあるものは全部、気に入ったら持っていくといい。全部、君のために揃えたんだからね」
 カミリアが出した馬鹿馬鹿しい結論を、ラウルは軽々と口にする。もっとも、カミリアが出した結論は本すべてであって、部屋のもの全てではなかったが。
「無駄遣いよ」
「そんなことない。これは大事な任務だから、これくらいのお礼はしないと」
 ラウルはカミリアに喜んでもらいたいという純粋な気持ちしかないのだろうが、カミリアにとっては更にプレッシャーがかかるだけだ。
 本を揃えるだけでもかなりの額だっただろう。下手をすれば化粧台やクローゼットも、カミリアのために用意された可能性が出てきた。そう考えただけでめまいがする。

「ねぇ、その化粧台とか、クローゼットとか、テーブルセットも、私のためだなんて言わないでしょうね?」
「家具や調度品は、元々この部屋にあったものさ。本と化粧品と服くらいだよ。それじゃあ、おやすみ。ゆっくり休んでね」
 ラウルはカミリアの額にキスを落とすと、部屋から出ていった。彼の足音が聞こえなくなると、カミリアはその場に座り込み、顔を覆った。

 ラウルの言葉や仕草のひとつひとつが、カミリアの心を揺さぶる。それだけでも精一杯なのに、これだけ目に見えるものを自分のために用意されると、どうしていいのか分からなくなる。
 ひとりの騎士としてそれだけ期待をされていると思えればまだ頑張れた。だが、ひとりの女性として自分を扱うラウルが、期待に応えようとするカミリアの邪魔をする。

「大丈夫、彼にその気はない。どうせ色んな人に言い寄ってるんだから」
 ラウルが団長になった翌日の朝のことを思い出す。彼は多くの人に囲まれていたが、特に女性が多く、彼女達はラウルにご執心だった。きっと彼女達にも優しい笑顔と甘い言葉を振り撒いていたのだろう。そう考えると気持ちが落ち着いてきた。それと同時に、胸がチクリと痛む。
「どうして私がこんな気持ちにならなきゃいけないの……」
 妙な自己嫌悪に陥りそうになり、深呼吸をしてベッドに座る。サイドテーブルに水差しがおいてあるのに気づき、グラス半分の水を飲んでから横になる。
 ふかふかの羽毛布団はカミリアを優しく包み、夢の中へ誘ってくれた。
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