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Memory of Night 2
第31章 来訪者

「それに晃は四月から東京の大学に行くって。だから一緒には住まなくなるよ」
「ええっ?」

 志穂は目を見開いた。

「だったら……、熱っ」

 とっさに前のめりになってしまったらしく、両手の平で包むように持っていたマグカップが揺れた。中の液体がこぼれ、志穂の指に熱い飛沫がかかる。

「何してんの、冷やす?」
「……ごめんなさい、ちょっと熱かっただけだから大丈夫」

 志穂はカップを置いた。宵が渡したティッシュで手を拭き、テーブルに溢れた滴も同じように拭いた。
 一通り片付けてから、続ける。

「……お友達と住まなくなるなら、わたし達の家に来ない?」
「行かない」

 宵はきっぱりとそう返した。その選択肢は宵の中にはなかった。例え晃が東京に行き一人暮らしに戻っても、このアパートに居続けるつもりでいた。

「……そう」

 志穂は見るからにしょんぼりした顔をする。

「別に一緒に住むのが嫌ってわけじゃないからな。でもやっぱ、自立したいんだよね。この部屋も、名義変更してもらうし家賃も自分で払うから、このままここにいていい?」

 まだ借り主は志穂のまま。家賃は毎月渡している。弘行はいらないと言うが、断固として渡し続けてきた。
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