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フレックスタイム
第3章 秘書室の女
3品目のお皿が運ばれてきたので、
スタッフの方に、
「こちらに…」と、模様の違うお皿を出して貰った。


アメリカ人のお客様には、
「ピーナツ、抜いて貰いましたので、
少し見た目が違いますけど、
美味しくして貰いましたから」と小さい声で言った。


デザートとコーヒーが出され、
最後にお見送りした時、
アメリカ人のお客様は、私をハグして、
両頬にキスをすると、
社長に「こんなに気配りする秘書が居るのは羨ましいよ」と言って、
握手をしてエレベーターに乗り込んだ。


「何のことだ?」と社長が言うので、

「さぁ?」と言って、
会計をしている伊藤室長の処は戻り、
マネージャーの方と料理のリクエストをお願いしたスタッフさんにお礼を言った。


エレベーターホールに向かう時、
「佐藤さん、いくら持ってる?」と急に伊藤室長に訊かれたので、

「15万です」と答えた。


「いつも、そんなに持ち歩いてるの?」と更に訊かれたので、

「まさか!」と答えた。


「何かのアクシデントでカードが使えないこともある。
伊藤室長が急用で離れる必要が出る場合もある。
だから、食事分と、先方にお車代を渡すことを計算して、
念の為、持ってきました」

「パーフェクトだね?
ひょっとして、新札で用意してる?」

「取り敢えず、10万円分は新札です。
それしか手元に新札はなかったので。
ポチ袋と無地の封筒とかも一応持ち歩いてます」

伊藤室長は、満足そうに笑っていた。



ハイヤーで会社に戻ると、
時間まで翌日の予定と資料を確認して、
パソコンを持って会社を出た。

電話をしなくても、運転手の阿部さんは車寄せで待っていてくれたので、
「阿部さん、今日は何度も申し訳ありません」と言うと、
「佐藤さんなら、何度でも乗せるよ?」と笑ってくれた。

「これからも宜しくお願いします。
判らないことばかりで…」と言うと、
「社長も伊藤さんも、
女性と組むの、初めてじゃないかな?」とボソっと言われて、
そうだったのかと思った。
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