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フレックスタイム
第4章 孤高の女
ケンが遊ぶのを目で追い掛けながら、
気になっていたお母様のことを訊いてみた。

「お母様も、お身体に差し障りがないなら、
ここに住んで、ケンや社長とご一緒に過ごされた方が良いのではないでしょうか?」


社長は、少し暗い目をすると、
低い声で話し始めた。


「何処から話せば良いのかな?
ケンは…俺の子供じゃないんだ」


「えっ?」


「産まれた時、病院の簡易検査でA型って言われた。
これは簡易的なものだから、違う場合もあるって言われて信じていた。
っていうより、信じたいと思っていたけど、
幼稚園に入る時の健康診断でも、A型だった。
俺も元妻もO型だから、有り得ないんだよ。
その頃には元妻と英語教師の浮気は公然としてたから、
問い詰めたらあっさり、
結婚前からヤツと付き合ってて、
どっちの子供か判らなかったと言われた。
俺、避妊には物凄く気をつけていたから、
おかしいなとは思ってたけど、
100%の避妊はないからと思って結婚したんだよね?
また、子供絡みで騙されたのかと思った」

私はあまりのことに震えてしまう。


「産まれた時は、彼女に似てるのかと思ってたけど、
成長するにつれて…
ウェーブがかった髪の色も、
瞳の色もどんどん、日本人ぽくないのがハッキリしてきたよ。
でも、俺はそれでも、
ケンは自分の息子だと思って、
育ててきたし、
これからもそのつもりなんだ」と、
ケンを見て笑い掛ける横顔を見ているだけで、
涙が出てしまう。


「そのことをさ、彼女は母にも言ったんだよ。
信じられない。
元々、仲は良くなかったけど、
それで決定的になった。
そんな人とは一緒に過ごせないと母は有料老人ホームを探して出て行った。
何十年もお手伝いさんをしていた女性も、
同じタイミングで出て行ってしまった。
それでも、俺は、
なんとかケンを中心にした家族としてやっていけないかと思った。
でも、彼女はあっさり、出て行った。
ケンを捨ててね」


私の震える手を、そっと社長が握り締めてくれるけど、
震えは止まらなかった。


「妻と離婚した後、
母にここに戻らないかと言ったけど、
ケンを見ると元妻を思い出して辛いから、
別居のままで居たいって…」


「そんな…」
私は絶句してしまった。
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