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短編集 一区間のラブストーリー
第16章 第十六話

都心から離れた山里の無人駅で電車を降りて
里見俊太郎は目的の神社行きのバスに揺られていた。

人里離れた神社とはよく言ったもので
車窓の景色からは民家とおぼしき家屋が全く見えなくなった。


『クリスマスイブだというのに
俺はいったい何をしてるんだか…』

友人の山岡がこの夏、
京都の有名な縁結びの神社にお参りしたら
すぐさま彼女ができた。

ご利益ってほんとにあるんだな…

迷信や宗教などあまり信じない俊太郎だったが
内心、彼女が出来た友人を羨ましく思っていた。

あれ以来、数々の縁結びの神社仏閣に脚を運んだが
これといった霊験は授かっていない。


今回向かう先は有名な神社ではなかったが
山奥の神社だけにご利益がありそうだった。

『ここでダメなら神頼みなんて終わりにしよう』

目的地に降り立った俊太郎はいよいよ神社に足を踏み入れた。

山奥だから寂れた神社を想像していたが
本殿はなかなか立派な建物だった。

俊太郎は五円玉を賽銭箱に入れかけて
もう少し奮発しようと思った。

十円玉2枚と五円玉ひとつ。

重々ご縁がありますようにと
語呂合わせのつもりだった。

参拝を終えて恋愛成就のお守りを買うために
社務所に立ち寄った。

そこでふと「山里駅行きのバスは何時発ですか」と尋ねた。

「えっと…たぶんこの時間だともう無いですよ」と
巫女さんが教えてくれた。

「えっ?そんなに早いんですか?」

僕は愕然とした。

まさか山道を徒歩で降りていくわけにはいかない。

だって、バスでさえゆうに1時間もの道のりだったんだから…

「あの…良ければうちに泊まりますか?」

巫女さんの言葉は渡りに船だった。

図々しいとは思いながらも
僕は彼女の好意に甘えることにした。


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