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蜜と獄 〜甘く壊して〜
第7章 【決断の時】





小さな子供を抱っこして上の方に書かせてあげる。
太い筆から細い筆までたくさんの子供たちが大いに楽しんだ。
最後にご両親の元に帰る時、名前を聞いても良いかと聞かれたので笑顔で答えました。




「書道家のサエ・キヌガワです」




写真撮影も快諾して撮った後、可愛い天使とバイバイした。
後片付けをしながらふと、近くで立ってこっちを見ている人影に気付く。




運転してきた車に道具を運搬し始めた時に「サエ」と微かに聴こえた気がした。
道具を持ったまま足は立ち止まり、動けなくなる。




「どうしたの?」とエレンが声を掛けてくれるが、私は後ろを振り返る事が出来ずに居た。




「サエ」と再び声がしたのは聞き間違いではなかったようだ。
「知り合い?」と聞かれたが振り返れない私に道具を持って行ってくれて手持ち無沙汰になってしまった。




ゆっくりと影が近付いてくる。
もう辺りはすっかり夕焼け空が広がっていて人も少くなっていた。
近い……足音でわかる。
はっきりと鼓膜に届く声。




「紗衣だよな?」




「ひ、人違いじゃないですか」




やっとのことで出せた声に反応して足も動いた。
立ち去ろうとした腕を掴まれて久しぶりに感じる手の感触にもう泣いてしまいそうだ。




声もそう。




何ひとつ変わってない。




「顔、見せて?人違いだったら諦めますから」




心臓がドクドクと高鳴って頬にも溢れて濡らしてしまう。
離れた場所でエレンたちが見守ってくれている。
ゆっくりと振り返らされた。




濡れた瞳とあの瞳が重なって私はその場で泣き崩れた。
頭を下げて謝った。
肩を掴んで支えられる。
真っ直ぐ私を見るあなたも泣いていた。




「やっと見つけた……紗衣……紗衣だよな?いや、字を見りゃすぐにわかんだよ、俺」




嗚咽を繰り返す私を優しく抱き締める腕を拒んだ。




「優しくしないで……そんな資格ない…っ」




「おいおい、感動の再会だろ?第一声からして冷たくねぇ?人違いだの資格ないだの……悪いな、俺その辺はめちゃくちゃ諦め悪いんだ、観念しろよ」




うっすら匂う懐かしい香水。




「紗衣、迎えに来た、もう俺の前から居なくなるな、一生傍に居ろ…」









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