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胡蝶の夢
第10章  心無いモノなら






「主人の命令の為ならなんでもすると?」



そう質問すると、寛継は淡々と答えた。



「ええ、仕事ですから」



あまりにも業務的な返答。


まるでマニュアル通りに答えが決まっているように、平然と言う。


なんだかその答えが気にくわなくて、どうしてももうひとつ言って困らせてやりたくなった。



「じゃあさ、死ねって言ったら?」



寛継の眉が僅かに跳ねる。


重く響く『死』の響きが、言葉の中に鮮明に聞こえた。


自身が放った言葉なのに、その言葉の毒々しさに自身が一番ショックを受けている。


ここで黒崎の使用人に嫌がらせをしてみたところで、何の気も晴れない。


むしろ慣れない意地悪に居心地の悪ささえ感じる。


けれど、それでもやはり聞いてみたい。


彼がどう答えるのか?


きっと僕は性格の悪い顔で、寛継の反応を楽しんでいたのだと思う。


答えずらい質問を誤魔化すのに、必死に動揺を隠そうとする姿が見たかった。


黒崎への忠誠の浅さを窺いたかったのだ。


けれど一時の沈黙の後、寛継は悠々として言い放った。



「主人の命令ならば、喜んで…」








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