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胡蝶の夢
第2章  月 



紅い舌先が伸び、優越に笑む兄の靴を舐りました。



「くくっ……汚いドブ犬め」



私はその様子を息を殺して見ている事しか出来ませんでした。


兄の高笑いが聞こえます。


私には兄を止めることなど出来ないのです。




いいえ。





正しく言えば、止める気が無かったのです。


止めるのが怖かったのです。


この場所に忍び込んだ事が発覚すれば、私はこの先どうなるか解らない。


自分の保身のために。


いつもと変わらぬ明日を迎えるために。


秘密を暴くなどという大それた行動を悔い、ぶつける場所の無くなった劣等感と反抗心を引き摺りながら。


助けてくれた彼を見捨て、救い返えす事も出来ない。


救い返そうともしない自分をまたひとつ嫌いになりながら……。


私は強く目をつぶり、耳を塞ぎました。





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